Vol.1

世界とつながる、見え方が変わる

Kさん(音響スタジオ勤務)

3月。それは別れの季節。新たな出会いなど心機一転して華やかなイメージがある一方で、先のことが見えない人にとっては不安が募る時期でもあります。
これは、そんな時期に迷いや不安を向き合いながら歩んできた、ひとりの人のお話。

「最初は乗り気じゃありませんでした」

ちょうど2年前の6月に、サポステに初めて来ました。その日、急に父にご飯食べに行こうかと言われ、近くの喫茶店に入ったんです。そこで父がおもむろに、「こんなんあるんやけど、どうや?」と、連れて来たのがサポステだったんです。
今思うと結果的には良かったんですが。そのときはもう全然そんな気じゃなかったので憂鬱な気分でしたね。「どこに連れて行かれるんやろう・・・。無理やり労働させられるんちゃうかな」って。でもそんなふうに気分は落ち込んでいましたが、親を蹴飛ばして逃亡するほどの元気もなかったので、「じゃあ行くわ…」としぶしぶ付いて行ったのを覚えています。

中学時代までは、自分で言うのも何ですけど、結構勉強はできたんです。ただ、高校はで進学校に進むと、周りができるやつばかりで、「ああ、自分は思ってたより出来ないんだなあ。」と、そこで気が付きました。

大学では、高校時代に音楽が好きだったのでその関係が学べるところがいいなと思い、九州大学の音響や音響に関する学科に行ったんです。入ってビックリしたんですけど、周りの人もは楽器弾けるのが当然といった感じで、そこもすごい人達ばかりでした。授業も理系バリバリな感じでして。僕はただ音楽好きなだけだったから、大学に通いながら「ああ、そういう人が来る所だったのか」、「自分はこんなのがやりたいんじゃない」と自分の進みたい方向がわからなくなっていました。授業に何度も躓いて夏休みにも追試受けたりとかして……。結局留年で、4年生を2回もしてしまいました。

ー 若い人で明確な進路を目的を持っている人ってなかなかいないですよね。

確かに、ちゃんと就活をしてる子でも、絶対これをやりたいっていう人は少なそうでした。大学で学んだことと全然関係ないことやっているって人のほうが多いですし。

その話を聞いてると、周りに流されてやるというよりかは、やりたいこともないし、もうこのままでいいやっていう気持ちに正直でいたのかもしれませんね。

初めての仕事

サポステに通い始めてから、しばらく就活セミナーを受けて、いよいよ就職活動に入っていくわけですね。

始めは、しぶしぶセミナーに参加していましたが、もうそろそろ、「このまま家にずっといてごろごろしてられへんな。」って、思うようになっていました。職種のイメージは全然なかったんですが、音響や映像などメディアに関することに興味があったので、結構自分でも求人を探して応募をして。不採用を何社かもらってという感じで始めていました。
そのうち、サポステからの紹介でZUTTO(ズット)と言うNPO法人の緊急雇用事業で働くことになりました。

具体的にはどのようなことをしていましたか。

庄内バルというイベントがあるんですが、その広報を行っていました。ホームページやポスター作ったり、当日のマップやチケットのデザイン作ったり。わからないなりに教えてもらいながらですが、手探りでやっていました。

その中で、仕事や、やりたいことのイメージはつきましたか。

そうですね。仕事では直接お店に行ってお話聞いて、デザインを作ってまた持っていくという感じで、お客さんと直接やり取りすることができたのがすごく良かったです。顔が見えるというか。自分で考えて作ったものに反応がもらえるって感覚がすごく嬉しかったです。
あと、その中で小さな飲食店に何度か足を運んでいたんですが、そこのマスターと音楽の話が合って、「こんな人もいるのか!」と発見もあって、凄く仲良くなりました。そのお店は今でもちょくちょく行っています。
始めはやっぱり不安やったんですけど、仕事に行くことが全然嫌じゃなかったんです。こんなこと言うと良くないのかもしれませんが、もしかしたら今よりも元気に行ってたかもしれません。

希望叶わず、停滞期

楽しくしていたその仕事ですが、緊急雇用事業は期間限定なので、年度終わりで契約が切れてしまうんですよね。なので、働きながら並行して就職活動を考えていたそうですが。

なんだか卒論といい、大変な時期ですね。3月は。

大変な時期でした。またそれがスパッと決まらないんですよね。ZUTTOでの仕事が終わった後に、テレビ制作会社のインターンに応募しました。入社するつもりで申し込みました。インターン自体はしんどかったんですが、頑張ってみようと思ってたんです。しかし一向に採用通知の電話がかかって来ませんでした。一度連絡があったときには、他にも検討中の人がいるからもう少し待ってくれ、と言われてしまい。自分ではそこに行くつもり満々だったので、他を探さずに待っていたんですけど。1ヶ月以上も待ってから連絡が来て、「今回は不採用で。」と言われてしまいました。
せっかくやる気になっていたのに、落ち込んじゃって、その後「ああ、どうしようかなあ。」って、また1ヶ月くらいぶらぶらしてました。

大切な居場所、「ニートルズ」。
その空白の時間にもニートルズの集まりにはずっと来ていました。「ニートルズ」というのはサポステがキッカケで出来た音楽バンドです。当時は「ニートルズ」って名前もなくって、ただの音楽サークルだったんです。ちょうど僕がセミナーを受け始めたころから始まって。特に何の曲を練習するでもなく、なんとなくギターを弾きに来ていたんです。そこには休まずに来ていて、すごく楽しかった。

今はメンバーも変わり、始まった頃と比べると変化しているんですけど、これからも続けていきたいなって思います。仕事以外の本当に純粋に音楽が好きな人たちの集まりなので、そういう場所があるというのが自分自身にとってすごく大きかったですね。

そして、転機は急に訪れる

落ち込んでいた時期もあって、心配をしていましたが、ニートルズや周りのサポートもあり、復活して再び通いだしてくれて。そして、それが実って就職へ至ったわけですね。

再びサポステに通うようになってから幾つか求人に応募して、面接へ行くことが決まりました。そこが今働いているところなんです。2次面接の帰り道で急に会社から電話がかかってきて。「いつから働けますか?」と採用の連絡でした。とっさに「じゃあ、来月からで。」、と答えてしまったんですが、落ち着いて考えてみるともう三日後だったんですね。全く心の準備はできていませんでした。

働く楽しさとしんどさ

そして今で働き始めてだいたい1年ですが、何か感じていることはありますか。

なかなか、一言では言えませんが。ちゃんと1年働けたことは、なかなかがんばったなと思っています。
今は録音スタジオで音を録るエンジニアとして勤務しています。と、言うとなんか凄く格好良く聞こえますけど。うちのスタジオは音楽録音はほとんどなく、リスニング教材や館内放送を録ることが多いんです。
やっぱり働く中でしんどいことがあって。最初はスタジオで働けるなんてかっこいい!なんて思ってたんですけど、入社した8月以降はめっちゃ忙しくなってくる時期でした。残業続きで大変で。毎日遅くまで制作作業をしていて、「自分何やってるんやろう・・・」って思ってました。

でも、だんだんと、最初は録音も先輩の横についてアシスタントでやってたことが、自分でマイクをセッティングしてミキサーも触ってという感じでメインの仕事も任せて貰うようになってきています。そうやって進歩して、できることが増えていくというのはすごく嬉しいですね。

世界の見え方が変わった!

ある意味、挫折を経験した学生時代。目的もなくてやる気が出ないって話しをしていましたけど、そのころを比べて今の自分自身についてどう感じますか。

根っこの部分では変わってないと思います。人見知りで、あんまり社交的ではないですし。でもどこか、客観的に見れるようになったと言うか、ちょっと違う感じはありますね。
引きこもってた頃は近所の人とかに会いたくなかったですし。昔の友達にコンビニなんかで会ったりしたらもう最悪やと思ってました。今はそんな感じもしないですね。

今でもたまに会社しんどい時に「もう、辞めたろ!」と思うこともありますけど、でもトータルで考えたら、今は人生前向きに生きているなと感じます。世界に対して自信を持っている気がしますね。世界というのは、周りにもですし、自分の中に対しても、です。

もっと人と仲良くなりたい

サポステに通い始めたころには信じられない言葉ですね。では、これからしたいことや、目標はありますか。

そうですね……。友達を増やしたいです。あんまり行動できてないですけど、いい距離感の友達が欲しいです。頻繁に遊びに行くとか別にしなくていいですけど。もっと話して、人と仲良くなりたいですね。
こんな欲求も数年前まではなかったので、これも変化したところですね。できれば誰もいないところで一生を終えたいと思ってたので。

唐突ですけど、大学生のとき引きこもりながら、近くにあったレンタルビデオ屋でいろんなDVDを借りて観てたんです。その中の一つに寅さんの映画がありました。「ああ、こんなにぶらぶらした生き方もありなんやなあ」って思いました。でも俺はコミュニケーションが得意ちゃうから、寅さんみたいに人としゃべれへんなって観ていました。

でも、自分も既に変な方向に人生来ちゃってるから、寅さんみたく、とことん変な人生に行っちゃおうかなって。海外行ったりとか。どこかに行けば何かが待ってるんじゃないかと、淡い期待があったりして。まあそれを踏み出すほどの勇気はないんですけどね。でも、別に日本を放浪しなくても楽しく生きていけるんだなってことがわかって良かったです。

改めて話を聞かせて頂いていると、しみじみとすごいなあって感じます。最初は家族以外とはあんまり話さなかったり、友達にも会いたくなかったのに。それからの数年ですごい変化ですね。何がそうさせたのでしょうか。

何がそうさせたのか……。なんでしょうね。でもやっぱり仕事をしていて、「あ、自分でもこんなことできるんだ。」というのが分かってきて。あ、なんかちょっと謎の涙が……。
多分ずっと閉じこもることもできたとは思いますが、やっぱり無理やりにでも出て行ってよかったなあと感じます。それが自分からじゃなく、親父きっかけでも良かったんです。当時の話はもう親父としないので、後でこっそりお礼を言っておきます。

「もっと伸びるぞ!」前向きに

今までたくさん話していただいてありがとうございます。これまでのことを改めて振り返ってみて、いかがでしたか。

振り返ってみるとこの数年間、色々あったなあと感じます。いまだに仕事でも怒られてばかりなので、まだまだですね。先輩の何人かに言われたんですが、「もっと自信を持ってやれ」ってよく言われます。自信がないのは自分でも自覚があったので、あぁ、やっぱりバレるのかあって。
でも、もっとできるだろって思ってくれているから、周りの人がそうやって言ってくれるのかなって思います。それに、だんだん仕事をしている中で、少しずつできることが増えているのを感じているので、まだもうちょっと伸びるぞ!って、思っています。

最後に、メッセージ

では最後に、同じように就職に悩んでいたり、どうしたらいいか分からない状態の人たちに向けてのメッセージをいただけませんか。

メッセージですか。1つ思うのは、僕は映画とか音楽とかが昔から好きで、引きこもっている時でも見ていました。でも、家にずっといながら見ているより、仕事をしている今のほうが深く感動できるんです。色々わからなかったことが実感できるようになってきたんですよね。なので、もし、映画や音楽、他のものでもいいんですけど、そういった好きなものがある人はぜひ、外へ出てみてほしいなって思います。また違ったものが見えると思うので。
何でもいいから外に出るのは大切ですね。散歩や、自転車でぶらぶらするだけでもいいので。いろんなことが見えてくると思います。僕も朝起きてから、ご飯食べて寝てっていうのを繰り返して、ずっと自分の部屋で過ごしているのが一番楽しいだろうと思っていたんですけど。今はそうじゃないなあって感じます。
そんなアクティブなことをしなくていいので、「あ、ここに新しいお店できてるんだ。」とか、そんなくらいで。そうやって、色々体験して感じでみたらいいと思います。何かしらの発見があると思いますよ。

人としゃべれるっていいですね

あとは、そうですね。サポステは全然恐ろしいところじゃないんで!身をもって体験した僕が言うからそこは保障します。ドキドキせずにみんな来てみてください。
自分ひとり、家のパソコンで求人を探して、応募して、面接に行って。これはめっちゃしんどいと思うんですけ。だからアカンかったときでも話を聞いてもらえるってだけで、めっちゃ助かるんです。全然仕事に関係ないことでも話せる、聞いてもらえるっていうことだけで気持ちが楽になるんです。そうですね、やっぱり人としゃべれるっていいですね。ほんと、そう思います。

― 本日はお忙しい中、ありがとうございました!

利用者の声

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